少年愛之美学

守備範囲がやや広めの腐女子による鑑賞と思索。思い付いたまま書き散らしている。

「ユーリ!!! on ICE」、男性美消費ルネサンスとゲイ承認について〈YOI感想前編〉

ジェンダー論とかホモアニメとかそんなんじゃねえもっと深い愛を描いたうんたら、など様々な議論が成されているアニメですが、eikouはポジティブ腐女子なのでたいていの話には「なるほど。」となってしまうタイプですけれども、個人的にこのアニメの客観的テーマというか意義というかについての思いがあるので、今回〈前編〉ではそれについて、また後日〈後編〉で普通に作品に関する萌え語りを、させていただきたいと思います。初めに立場をはっきりさせていただきますが、原作は全て視聴済み、大ファン! であり、その上で腐った目で見ています(BL作品として楽しんでいる)ので、読むにあたってご理解願います。

公式が本格スケートアニメを謳っていることに対して批判的な人が一定数いるようです。批判の仕方としては、スポーツの側面よりも心理描写に重点があるのでスポーツアニメというよりはヒューマンドラマである。というのが、私が見かけた中では好意的なもので、もう少し攻撃的なものもある。気持ちが解らないでもありません、スケートアニメという意味では全く必要のないボーイズラブ的サービスシーンが多々ありますから競技のファンの人かつ/またはBLに親しんでいない人の中には理解し難かったり不快に思った方もいらっしゃるのでしょう。
しかし私からするとそういった批判は実に甘い! この作品を正当に批判できていないと、思ってしまうのです。まあ勿論ファンなのでだいぶ贔屓目です。

結論を言いますと私の考えるこの「ユーリ!!! on ICE」のテーマは「男性のエロス」なのでは、と思っています。平たく言って「男の色気」。製作者の方々がそうお考えになっていたかは無論存じ上げませんが、受け手として受け取るべきテーマはこれなんじゃないかと、受け手として、考えたのです。
例えばこれまで某水泳アニメ「Free!!」のような男性の肉体美を全面に押し出したアニメ作品はありましたが、たいていはスポーツを通した少年たちの絆や青春など、別のテーマがあった上でサービスとして肉体美や男の子同士の心身の交流(笑)が挟まれていたに過ぎない、一方この「ユーリ!!! on ICE」においては男性の肉体の(性的)魅力と男性同士の心身の交流そのものが重要なテーマであるとeikouは考えます。

フィギュアスケートという競技は、私は元々スケオタではないので余り詳しいわけではないのですけれども、採点に演技構成点という要素を含むらしい。これは所謂「技術点」に対する「芸術点」なのでしょうが、少し調べたところによるとどうやら、いかに観客の心を打つかということがジャッジされているわけでもなく、いかに空間を活用し均整の取れた演技をしているかという性質のものであるようですね。
ジャッジに関することを知識の浅いうちにここで根拠に用いてしまうと誤りがあった際に全ての話の説得力を失ってしまうわけですが、だとしても少なくとも多くの観客にとっては、男子フィギュアスケートとは試合というスポーツ一般の価値である闘争的高揚感よりも多分に男性の作り出す「美しさ」を消費するエンターテイメントであることは間違いないのではないでしょうか。
いずれにせよこの競技は、男性が審美の対象になりうる、美しさ≒性的魅力を価値として消費されうるということの象徴だと、私は思うのです。男性が美しさを売る産業は他にもバレエやモデルやアイドルなど(俳優なども勿論そうですがおそらくあれは美よりも演技力を商品とする側面も多分にある)色々ありますれども、フィギュアスケートもそのうちの一つであります。「男性美の消費」意識は、私の印象としては江戸時代くらいまでには結構な高揚を見せ、西洋文明の需要とともに一時衰退・停滞し、現代またルネサンスを見せている、その流れの中で生まれた文化作品の一つとしてこのアニメが生まれた、そういったものを私は感じました。

誤解を与えてしまうと申し訳ないので少し詳しく申し上げますと、別にフィギュアスケート選手は性的存在として視姦されるべきなどということが言いたいのではなく、それは一般的認識でもないでしょう。ここで敢えて「美しさ≒性的魅力」と申し上げる理由というのは、人間の美というのが性的魅力と密接に関わるという一般論も根拠の一つですが、他にも私がこのブログのテーマとする「A感覚」の概念が関わってきます。つまりそういう意味ではここで言う「性的魅力がある」とは「A感覚を保有している」=「真理と接続している」という意味であり、ここで言う「美しさ」とは究極的に「完全である」「完全な均衡を持っている」=「真理(イデア)と一致している」、そういう美しさであり、フィギュアスケートが競技として目標とする芸術が一応この「完全さ」であることから、このように表現させていただいているわけです。作中の選手たちはフェロモンを撒き散らす美男子も多くファンの女性などから「P(A=”anus”に対応して"penis")的」憧憬、分かりやすく申し上げると「抱かれたい男」といった意味での切望を受けていることも多々あるようですが、彼らが表現者として氷上で目指す競技としての芸術は、個人差はあれど、この「A的」完成、なのだと思います。この辺りのAとかPとかについては詳細は後日別の記事で書く予定ですが差し詰め当ブログの他の記事も一緒に読んでいただけると理解も深まるかな……と……それか稲垣足穂氏の「A感覚とV感覚」をお読みになってください。大体そこに基づいています。
いずれにせよこういった真理的・宇宙的エロスを、エンターテイメントとして作品を視聴する受け手に対し分かりやすく示しているものが、この作品における男性美描写の一つの働きであるのではないでしょうか。

男性美描写の必要性は解った、ではなぜ「BL」なのか。それはこのA感覚というのが生殖とは異なった意味を持つ性感(感動、恍惚)であることをこれまた解りやすく、示しているのです。「男の僕でも妊娠してしまいそうなエロス!」のセリフがその極みでしょう。

こういうわけで、ユーリオンアイスにおけるBL的描写は、ビジネス戦略としての「腐媚び」の意味に加え、それが作品としてこの世に現れる必然性たる、作品のテーマそのもの、であるとeikouは考えています。(※製作者様の意図とは関係ありませんよ!)そしてこのことは、ルールや試合形式の解説・競技の描写をしっかりと取り入れているという意味での「本格スケートアニメ」の名を否定するものではなく、したがってこのユーリオンアイスは「本格スケートアニメかつホモアニメ」なのだというのが一ファンとしてのeikouの見解です。


またテーマは「愛」だ! という意見にも一理あります。タイトルにある(=作品の核心である)2人の「ユーリ」の各々のキーワードが「エロス」と「アガペー」であること、また作品のキーワードである「二つのL=loveとlife」、何より師弟と中心とする登場人物たちの絆の深め方などから鑑みてもこれは確かに言えます。エロスとアガペーに対応するであろう恋と愛についてはこちらで以前書きましたが(ヴィクトルに憧れて自らの中に彼を表出させることを目指した)勝生勇利と(ひたすら受容する愛を理解しながら孤高の美を目指す)ユーリ・プリセツキーはこうして各々が掴んだ違う方向性でこれからも競技生活を続けていくのかな、など考えると胸熱。


それから作品の社会的意義として、同性愛の承認の拡大に一役買っているのでは、というのにも賛成です。
世界各国の選手が登場するなど国際的なつくりになっていることから海外の方々の中にもこのアニメに親しみを持たれる方がいらっしゃるように見えますけれども、私の印象だと作品のメインキャラであるヴィクトル・ニキフォロフの出身ロシアでは同性愛宣伝禁止法をはじめとしてゲイフォビアの風潮が強いのかなと感じますし(参考→【LGBT】ロシアの同性カップルが抱える闇とは 世界報道写真の大賞(画像集)、アクセス日170613)他国でも勿論日本でもそういった傾向はどうやら稀ではないようですが、この作品が国際的に受け入れられることでゲイ的なものへの認知や好感が広がると個人的には嬉しい。とか言うとお前どの立場なんだと言われてしまうかも知れませんが単純にほっこりする。作中で実際に登場人物の中に公式設定のゲイが居るとか同性愛関係があるとかいうわけではないので「BLっぽい」の範疇を越えないという見方もできますけれども、教会の前で指輪交換なんてもう証拠十分ですよ。十分男性同士の恋愛・結婚を想起させますからね。良いぞもっとやれ。それに(フィクションの)BLと(現実の)ゲイが相容れないというのは私は違うかなと思います。少なくとも私に関して言えば、自分はヘテロだがBLが好きだからホモが好きで、他人がヘテロだろうがホモだろうがどうでもいいという立場に立てている。少なくともこの話題において他人を徒に否定するような負の感情を自分は巻き散らしてはいないと思っている、或いはそうしないよう気を付けている。こういった、数直線で言うところの「0以上」の評価の積み重ねが、全ての人が幸せに生きられる世界を作ると私は思っている。そういう意味ではこの作品を通してゲイ的事象全体に対し0以上の評価を与える人が増えれば、この作品はその方面で成功した、良い意味を持った、ということになるとeikouは思う。


eikouの考えるアニメ「ユーリ!!! on ICE」の意義は目下こんなところです。いやもうほんとすこ。劇場版楽しみ。ありがとうございます。
また近々〈後編〉を更新させていただきます。次は概ね「ユーリオンアイスのここがエモい!」みたいな萌え語りになるかと思います。

ehirocyanos.hatenablog.com
(170625更新)